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縄文人の全ゲノム解読に成功

縄文人、漢民族より韓国人に遺伝的に近い
縄文人の全ゲノム解読に成功

図1.高精度の縄文人ゲノムが決定された船泊23号女性人骨の頭骨写真(坂上和弘氏提供) 

図2.船泊23号と世界中の現代・古代人との遺伝的親和性。
縄文人と東アジア沿岸部周辺の現代人の間に遺伝的親和性があることを示しています。 

独立行政法人国立科学博物館(館長:林 良博)の研究員を筆頭とする国内7研究機関11名からなる共同研究グループが、北海道礼文島の船泊遺跡から出土した約3,800年前の縄文人の全ゲノムを高精度で解読しました。この結果、古代日本人DNA研究が大きく進み、日本人の起源が解明されることが期待されます。 

■研究の背景 

※省略 

■研究成果の概要 

船泊23号女性人骨の高精度な全ゲノムから、アルコール耐性や皮膚色など複数の形質を推定しました。これらの情報を元にした船泊縄文人の復顔については昨年発表を行いました。今回の研究では、日本の古代人で初めてHLAのタイプを明らかにしています。HLAはヒトの体の中で重要な免疫機構として働くだけでなく、近年では多くの疾患とも関連していることが明らかになりつつあります。どのようなHLAのタイプがいつから日本列島に存在しているかを確かめることは、日本人の起源だけではなく、我々の持つ様々な疾患に対する理解を進めることにもつながります。 

さらに、疾患関連の変異としてCPT1A遺伝子の「Pro479Leu」非同義置換も検出されました。このアミノ酸の変化は高脂肪食の代謝に有利で、北極圏に住むヒト集団ではこの変異した遺伝子の頻度は70%を超えています。しかし現代日本人には、この変異はほぼ存在しません。船泊遺跡から出土した遺物の分析では、船泊縄文人の生業活動は狩猟・漁撈が中心であったことが示されており、この変異は彼らの生活様式と関連していた可能性があります。考古遺物から推定される彼らの生活が、遺伝子からも裏打ちされたことになります。古代ゲノムは、これまでの研究からはうかがい知ることの出来なかった、古代人の性質をも明らかにしました。 

ゲノムの遺伝的多様性が低いことから、縄文人の集団サイズは小さく、それが過去5万年間に渡って継続していたことが明らかとなりました。縄文人につながる人々は、歴史上集団のサイズを大きくすることはなく、少人数での生活を続けていたようです。このことも、狩猟採集民である縄文人の生活様式と関連している現象だと考えられます。 

アジアにおける船泊縄文人の系統的位置は先行研究の結果と一致し、アメリカ先住民を含む東ユーラシア集団の中で、船泊縄文人は系統的には、最も古い時代に分岐したことが示されました。ただし、パプア人や4万年前の中国の古代人である田园洞人が分岐した後に分岐したことも明らかになりました。このことは、縄文人の系統が比較した大陸の集団から長期に渡って遺伝的に孤立していたことを示しています。しかしその一方で、ウルチ、韓国人、台湾先住民、オーストロネシア系フィリピン人は、日本列島集団と同様に、漢民族よりも遺伝的に船泊縄文人に近いことが示されました(図2)。東アジアの沿岸の南北に広い地域の集団が船泊縄文人との遺伝的親和性を示すという事実は、東ユーラシアにおける地域集団の形成プロセスを知るための手がかりを提供しており、大変意義深いものです。 

今回の高精度の縄文人ゲノムは、今後の古代日本人DNA研究の基本となる参照配列となることが期待されます。私たち現代日本人は、縄文人と弥生時代以降の渡来人の混血によって形成されたと考えられていますが、その過程の中で縄文人からどのようなDNAを受け取り、また受け取らなかったのか、ということを明らかにすることは、私たち日本人を理解する際に重要な情報を提供します。今後のゲノム解析は、従来の研究方法では知ることの出来なかった私たちの特性を明らかにするはずで、その中で船泊縄文人のゲノムデータは大きな価値を持つと考えられます。 

論文著者:神澤秀明(国立科学博物館人類研究部研究員)、Timothy A. Jinam(国立遺伝学研究所)、河合洋介(東京大学)、佐藤丈寛(金沢大学)、細道一善(金沢大学)、田嶋敦(金沢大学)、安達登(山梨大学)、松村博文(札幌医科大学)、Kirill Kryukov(東海大学)、斎藤成也(国立遺伝学研究所)、篠田謙一(国立科学博物館人類研究部部長) 






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